受験エリートが医学部に殺到

患者の命を救うために自分を犠牲にするのは、当然のこと。医師としての実力と地位が上がるほど、「責任」と「仕事量」は増えていく。それをこなす努力をしているからこそ、トップドクターとして活躍し続けられるのだ。逆に言えば、それができないと「本物の医者」にはなれないということでもある。

東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科教授の横尾隆医師も、次のように本音を明かす。

「患者さんを救うためには、診療だけでなく新しい治療法を開発するための研究、若い医師たちの教育もしなくてはいけない。患者さんを助けるという目的と責任感 が根底にあるからできますが、身を削ってやらなければならないことが多すぎます。医者という仕事が、あまりにも美化されすぎている。そんな簡単にできるものではないと思うんですよね」

医学部を目指す学生の中で、本当の医者の厳しさを知っている人はごく限られているだろう。「頭がいいから」という理由だけで医者になる人が増え続け、現場に出て初めて「こんなはずじゃなかった」と嘆く医師は多い。横尾医師が続ける。

「いい成績を取って褒められるということを繰り返してきた子たちは、点数を取ることが目的になってしまっています。でも、医者になった途端、評価されなくな る。患者と医者との関係は点数では表せませんから。一生懸命患者さんに尽くしても給料が上がるわけではないし、誰かが採点するわけでもない。そうすると、なんのために仕事をするのか、目的意識を失ってしまうんです」

その結果、医療の現場にはこんな医者たちが増えている。決められた最低限のことしかせず、自分の権利ばかりを主張する「マニュアル医」だ。

「勉強のために論文を読んでおけと言ったら『勤務時間内に読めなかったら、時間外手当をつけてくれ』などと言う研修医が実際にいます。そういう人には、何かを教える気にもなりません」(都内大学病院内科医・40代)

勤務時間が終わればさっさと帰り、自分の担当する患者の容体が急変しても、当直医に丸投げ。

「根源にある『患者のために』という精神を捨てるのは、同じ医者として許せない」と横尾医師はこぼす。患者の立場からしても、こんな医者に当たったら、たまったものではない。

だが、こうしたやる気のないマニュアル医が淘汰されることはなく、次第に増えていっているのが実状だ。

「僕が研修医の頃は、定時を過ぎても働くなんて当然のことでしたが、いまの時代、強制することはできません」

NTT東日本関東病院内視鏡部部長の大圃研医師はこう言う。自分の権利ばかりを主張する部下に、医者の志をいちいち説く暇はないし、反発されては組織が崩れる。そういう医者の生き方もあると認めざるを得ないという。大圃医師が続ける。

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この記事を書いた人

1962年生まれ。国際基督教大学卒業。
株式会社みずほフィナンシャルにて融資・外為・国際資金為替・海外駐在勤務。
株式会社アットマーク・アイティ(現アイティメディア株式会社)管理部門責任者として創業に参画、2007年4月東証マザーズに上場。現在は、株式会社 Avec Plaisir 代表として、助成金・補助金を含めた財務改善、IT活用、オンラインマーケティング等、幅広いサポートを提供している。

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